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2012年3月24日

暗く深い声


引退して40年以上、亡くなってから18年近く経ってしまった。コミカルな役からワーグナーのシリアスな役までこなした名歌手、ゴットローブ・フリック。華やかなオペラの世界ではソプラノとテノールたちに主役は譲ったものの、声を聴けばすぐフリックだと判る特徴的で存在感のあるバス。私はフリックの歌唱には惹かれるものがあって以前から大好きな歌手である。

全盛は1940年代から1960年代であるからフルトヴェングラー、クレンペラーなどの時代に重なる。戦後ドイツの3大バス(グラインドル、ベーメ、フリック)の一人でもあった。ハーゲン〈神々の黄昏:1955年クナパーツブッシュ指揮バイエルン国立)やカスパル(魔弾)を聴いてみるがいい。この深く暗い表現はほかに聴けないだろう。

ニルソンが「最も深い声」とフリックを称えているし、フルト ヴェングラーも彼については「最も黒いバス」 と語ったそうである。ドイツでは悪役ハーゲンを歌う歌手を「黒いバス」というが、schwärzesten bass(独)=blackest  bass (英)言ったのである。


今、聴いているCDはGOTTLOB FRICK KING AND COMIC ACTOR というMEMBRAN社の10枚セット。とにかく彼の得意とした役柄はほぼ網羅されている。フリックは荘重な役や悪役のみならずコミカルな役柄にも長けていた。このCDの副題はそのことを表しているのだ。ジャケット写真もロルツィングの「皇帝と船大工」のヴァン・ベット市長だ。

まだ6枚聴いたところで全部聴き終えていないのだがとにかくこのドイツのバス歌手を堪能できるだけでなく多く楽しみが詰まったセットである。全曲からの抜粋のバックはコンヴィチュニー(タンホイザー)フルトヴェングラー(トリスタン、指輪)クナパーツブッシュ(指輪)ビーチャム(後宮)ジュリーニ(ドン・ジョバン二)・・・・その他カイルベルト、ショルティなどの名前が見られるしアリア集(だと思うのだが)からは、シュヒター指揮のものが収められている。ようするに過去の栄華が詰まったセットということもできるのである。1200円で当分楽しめそうだ。










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