明治末期から大正にかけて僅か37年の、しかも画家としての時期は病に侵されながら過ごした中村彜の作品を見ながら様々なことを考えた。たしかに彼の、作品によってはレンブラント、ルノワール、ゴッホを思い浮かべさせられる作品は、西洋名画の影響を強く受けた絵画として語られるだけであるとすれば、それは大変残念なことである。規模の大きな作品展示ではないにせよ一人の画家の絵をまとめて見る機会は多くあるものではない。この企画も実は新宿区にかつて彼が晩年病魔に侵されながらも作品を描き続けた彼の下落合のアトリエが記念館として復元されたことがきっかけになっている。
実は私も彼の作品をナマで見るのは初めてであり、たまたま新宿区立歴史博物館を訪れなければ永久にその名品たちに出会うことが無かったかも知れない。今回の展示で見ることのきる作品数は30点である。
彼が新宿中村屋の創業者の援助を受けて中村屋本店の裏にあるアトリエを貸し与えられ、作品を描いたのだが、その娘との関係、親兄弟との死別、病気のこと、故郷茨城のこと、千葉の海辺のこと。大島のこと。彼の短い生涯が彼の作品とともに、まるで小説を読むように受けとめることができる。
さらに中村彜の作品を見たいと思った。
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